萌えの朱雀

id:MWAVE さんのところで、見かけて思い出した。
たしか、カンヌで新人賞をとって、国内初公開されたテアトル大阪での初回上映に行った記憶がある。出演者の舞台挨拶があった。主演の娘さんは映画で見るより、垢抜けた感じ、悪く言えばスレた感じだった。その後どうしているのだろう。

この映画のタイトル「萌え」の朱雀。栄介はアンニュイな雰囲気の未亡人であるみちるの母にほのかな気持ちを抱いている。女子高生のみちるは、幼い頃から手を引いて遊んでくれたいとこの栄介が好きなのだがそれを表現する機会がない。しかし、同居していた彼らにも別れの時が来る…。

二世代の女性との同居(婆さんを加えれば三世代だが…)。普段は妹として、振る舞っているかわいらしい少女からの恋心の告白(告白の体をなしていなかったが)。よく考えると「萌え」系のアニメなどの設定そのものじゃないだろうか。映画のタイトルが「萌え」だったのは奇遇だ。しかーし、この映画の「萌え」は、一部の無自覚なヲタクたちの、強いが生命力を欠いた性欲のはけ口である「萌え」とはレベルが違う。

舞台となった木々が鬱蒼と茂った山あい。樹木、そして草葉、たぶん虫、自然の生命力がにじみ出る映像。その中に、直接的ではないが上記のような関係が描かれる。雨だれひとつでも、死んだ素材で固められた都市とは違って見える。丹念に描かれるそういった背景の前で、ひとつの家族が「失われて」いく。生命がいっとき強く炎を上げ、そして徐々に消えていく一連の流れを淡々と描写していく。どういう言葉が適当なのかわからないが、私の頭に浮かんだのは「エロティシズム」だ。
2時間のサスペンスドラマで語られるようなやせ細った浅い「情念」でなく、むんむんする生命の息吹の中でその一部として立ち上る人の心の動きが混ざり合ったたまま迫ってくるのだ。
ネット上の感想を見ていると「懐かしい自然」だとか、田舎の素朴な人情模様、みたいな受け取り方をしている人が多いのに驚いた。そんな風に見たら、おもしろくないじゃん。そう思うのだが。