日本人のバカパワー

大島渚氏の「バカヤロー」を思い出しながら、その後の日本と韓国の関係を見ると興味深い。特に最近の韓国ブームを見ると、くそまじめに「過去の歴史の理解」なんてことを言っているより、美味い焼肉や、テレビのメロドラマや、それに出演していた半笑いでぽっちゃり系の男版メガネっ子さんの方が、良好な関係や真の理解に役立っているのだ。これは、大島氏が対談の場で言っていたこととそのものだ。

過去について論理的な正しさを求めても認識のレベルの差や、コミュニケーションの溝により最後は「バカヤロー」という悲鳴を上げざるを得ない。

感情の面での同期を高めることの方が、仲良くやっていき、最後に理解しあうためにはるかに有効だという点を、バカにされながらも「ヨンさま」に熱をあげる人々が証明している。ヨンさまにファンレターを書くために朝鮮語を勉強したり、文化に触れた奥さまたちの方が、あくまで互いの国家の権力者の視点に立ったものでしかない「歴史」に振りまわされているマスコミに巣くうマッチョな新聞記者や、評論家よりはるかに真実に近づいている、そんな気がする。

私はこれを「日本人のバカパワー」と呼びたい。

以前、イスラエル軍パレスチナ側の住民が一触触発の状態で向き合っている場所に、新婚の日本人観光客カップルが何も知らずに入り込んだことが取り上げられたことがあった。当時は、現地の歴史などを何も知らない無知な連中が恥ずかしい、といった受け取り方もあったように覚えている。
しかし、よく考えてみれば、2,000年前のほんとだか嘘だかわからない伝説をきっかけに、たいした資源も豊富な自然環境もない土地にこだわり、いさかいを起こし、殺しあっている連中と、楽しみながら歴史的に有名な地域を、知識はないなりに喜んで歩いている新婚さんのどちらがまともか。どちらが「異常」なのか。

いちゃつきながら楽しそうに歩いている何も知らないカップルを観て、銃を構えたイスラエルの青年兵や、物陰に潜んでいたパレスチナの戦士は何も感じなかっただろうか。
「俺たちはなにやってんだろう」「あー、バカバカしい」と思わないのだろうか。
もし、少しでもそう思わせたなら、それはこの新婚カップルの「バカパワー」の成果だ。
浮世絵、陶器、絹製品、ブリキのおもちゃ、電機製品、自動車など日本はさまざまなものを輸出してきた。今後、日本は世界の平和のために国連の常任理事国になって派兵するとかじゃなくて、どんどんこういったバカパワーを持った人々を海外に輸出すべきだ。愛は世界を救わない。特に神の愛は、むしろ人を殺す。バカこそが世界をバカバカしくして、いさかいを減らす。まず、中国にもっとたくさんのバカを送り出そう。

そう「バカは世界を救う。」

バカバカしい。(森鴎外臨終の言葉)