バカパワー

日本人のバカパワーの話を以前書いたけれども、まあ、バカなので殺されてしまう場合もあるわけだ。かわいそうに。

なんというか、今回の犠牲者は以前の人質に比べて、国内のライトな方たちにあまり憎まれてないという感じだ。やはり、あんまりすごいので憎めないのだろう。これも一種のバカパワーのひとつだ。

公表されたビデオでも彼自身は「自衛隊を撤退させてください」とは言っていない。「自衛隊を撤退させないと私を殺すと言ってます」と寂しそうに言うだけである。なんとなくもうあきらめている感じだ。羊ランドに駅前留学していた彼が以前の日本人人質事件の時の、強烈な人質バッシングを知っていたのかどうかわからないが、ムリだよな、という諦めが漂っている感じは伝わってくる。このあたりもライトな方たちの普段のイライラをぶつける対象にならなかった原因のひとつだろう。

普通こういった被害が発生すると、マスコミも「これは、被害者だけの問題ではありません。我々全員にいつ起こるかわからないのです。皆で考えなくてはなりません」のようなNHK的思考停止アルゴリズムを含む文脈で伝えられるわけだ。しかし、今回はそういった当事者意識が、情報を発信する側にも、受け取る側にもない。
当然だろう。今伝えられている限り、急に思い立って、金も持たずにあれほどひどい状態だと伝えられるイラクまで行って、いきなりつかまって殺されちゃうなんて、佐藤琢磨がレースをはじめてたった5年でF1マシンに乗ったのより難しいんじゃないか。安易過ぎる、というか、スムーズ過ぎるというか。だから、現実感がないのだ。自分に起こるとは思えない。だから、共感できない。他人事。私にしたところでそうだ。

私が思うに、ライトな人々というのは、想像力やそれにともなう同情心の機能が比較的低めの人たちなわけで、自分が前線に行くことになるなんて想像もしないから、自衛隊イラク派遣には思い切り賛成したりするわけだ。小泉なんかも、自分のバカ息子が自衛隊だったら、あんなに簡単にイラク自衛隊を派遣したかな。まあ、私の父親を含め低所得者の最後の就職先である自衛隊に、金満政治家の家系の人間が入るわけなど、もともとないんだから、共感なんてできなくて当然だろうけど。

日本のマスコミなんて、今回の政府の間違いをそのまま伝えておいて「当初情報が錯綜し」とか言ってるわけだ。錯綜させたのは、おめーらだろうよ!三菱が欠陥車売ったり、雪印が古い牛乳売ったら、鬼の首とったように騒ぐくせに、自分たちの売り物である情報に根本的な欠陥があったのに、何の責任も追及されずに済むなんて、気楽な商売だ。

とりあえず自分の目でイラクの状態を見たい、と言って現場に出かけて殺されちゃった人と、現地に行くどころか情報もまともに検証せずに、嘘っぱち流して高い給料もらってる連中と、どっちがジャーナリスト向きなのかな。たとえば今も現地で取材してる人なんかも、バカって言えばバカなんだけど、そういう人のおかげで真実の一部が見えたりするわけだ。だから、バカな人たちは大事だ。それがわからず、単純にバカだ、バカだって言ってる人は困ったもんだと思う。って私もバカを連発してるわけだけど。

まあ、とにかく私はどっかのバカ息子より、殺されちゃったバカな人の方に同情します。