ダビング10無用論

今年になって、家のテレビが完全にデジタル化した。ダビングはできなくなった。
ただ、ほとんど不便は感じていない。ダビング10だとか、補償金だとかの議論もどうでもいい、と感じる。


私はそもそも録画、録音が好きで、中学生の時にモノラルのラジカセを買ってもらって以来、多くの時間と、自分の収入のかなりの部分を録画、録音に投入してきた。
学生時代はカセットテープ。就職してからはベータ、VHS、8mmVTR、MD、CD-R、DVD-RAM、DVD-R/RWの機器の多くを普及初期に購入し、メディアも購入してきた。ベータデッキ2台。VHSデッキ3台、8mmVTRデッキ2台、MDデッキ1台。PC用のCD-Rレコーダーは初期に単体で購入しているし、DVD-RAM/R用もPC組み込みでなく、単独絵購入してPCに取り付けた。ハードディスク/DVDレコーダーは今使っているものが三世代目。Panasonic DMR-HS1、東芝 RD-XS46Panasonic DMR-XW300の順だ。ラジオ番組を録音するために、オリンパスのラジオサーバも買った。

カセットテープが数百本。3種類のビデオテープを集めて数百本。MD数十枚。CD-R数百枚。DVD-RAM数十枚。DVD-R数百枚に数々の音楽、映像作品を録音、録画してきた。

さらに、アナログレコード百枚超、音楽CD 1,500枚。市販ビデオ数十本。市販DVD数十枚、という具合にコンテンツ自体にもそれなりに金を使ってきた。仮に音楽CDが一枚2,500円だとして、1,500枚であれば375万円だ。書籍、雑誌には、ここ最近は年間20万円〜40万円位使っているような気がする。

もちろん、本当のその筋のマニアには馬鹿にされそうな量ではあるが、一般的ではないのも確かだ。我ながら、コンテンツを自分で所有していつでも閲覧可能にしたい、という欲求が強かったんだろうと思う。

しかし、10代の頃から続けてきたこの時間と金の投資について、改めて省みると投資効率が低すぎたと言わざるを得ない。書籍や音楽CDについては、まあ、それなりに活用して楽しんだり知見を広めることができたが、ラジオやテレビ番組の録画保存なんてことは、一部の時差視聴用を除き、正直意味がほとんどなかった。まず、録音、録画したものを利用した率が低い。少数のお気に入りだけは繰り返しリプレイしたこともあったが、いつか聴きたい、いつか観たい、保存しておきたい、と思って録音、録画したものはほぼ100%二度と利用したことがない。そして時間が経つうちにそのメディア自体が消滅し、再生自体できなくなっていく。

アナログ放送時代に一所懸命録画、編集してライブラリにしたクラシック映画が、キオスクで1本500円で売られるようになっている。パブリックドメイン化しちゃったものなどだ。当初、ベータのいいテープは、1本500円以上していた。
そこまでいかなくても、数年前の映画ならよっぽどのことがなければ2,000円も出せば市販のものを入手できる。ただ、それも、またしばらくすれば、HD*1版が出てきて見劣りするものになってしまう。


もちろん録画したいコンテンツは映画だけじゃない。たとえば下らないアイドル番組などのほうが、後々入手できなくなる可能性が高く、逆に希少価値があるのかもしれない。ただ、私自身の経験として対象がアイドルの場合、10年も継続して興味を持ち続ける例はなく、希少価値が出てくる頃に録画した本人にとって無意味になっていることはほぼ確実だ。


また、そこそこの映画や番組だったら、たぶん数十年経ってもCSなどで繰り返し放送される。ダビング10が無意味だと思うのは、月に10回再放送される番組なら、全部録画して「ムーブ」しても、ダビング10で少量を増殖させても結果は同じだ。


人生には限られた時間しかなく、コンテンツは過去の蓄積もあり、年々増えていく。世界のコンテンツの中で、個人が消費できる割合は時々刻々と減っていく。たとえば、私の持っている1,500枚の音楽CDを毎日1枚聴いても4年かかる。あと、40年生きると仮定して、1枚のCDを10回聴き終わると死ぬのだ。ビデオ系の映像作品も全部合わせれば1000本を超えるだろう。そちらも毎日1本ずつ見ても3年弱かかるのだ。これに加えて本を読んだり、家族と旅行に行ったり、食事したり、寝たりもしなくちゃならない。仕事もある。


たしかにメディア産業は信頼できない。自分が大好きな作品がいつの間にか絶版になって、永遠に失われてしまう、という心配はある。そのために記録し、保存する。私にとって録音、録画はそういうものだ。しかし、そうやって保存しても、いつかは失われる。また、保存していても見る時間がない。

つまり私の一つ目のダビング10無用の理由は、そもそもダビングしなきゃいいだろう、ということだ。ダビングに金や時間をかける価値があるのか。

二つ目は、月に何度も再放送されるコンテンツについては、実質ダビング10とは関係なく、個別に録画してもコピーができてしまうわけで意味がないというところだ。個人レベルで複製をたくさん作って、知り合いに配りまくる、といった対策としても意味がない。

三つ目は、多分これがメディア産業側の最大の目的だろうが、インターネット等で公開されることの防止についても、意味がない。ダビング規制の暗号が解かれてしまった以上、どこか一箇所ででも公開されたとたんに、デジタルコピーされて出回るのだ。つまり、100点取れないと意味がないシステムというのはそもそも維持ができない。それこそ100%が世襲大統領に投票するような国でなくては無理だ。
だから、対策ははっきりしている。iTunesみたいなコピー条件がゆるい仕組みでも十分売り上げは上がるのだ。不正コピーと呼ばれるものをゼロにする、という偏執狂的な妄想と一緒に自滅の道を選ぶか、不正コピーのようなノイズを許容しても今までより顧客の満足度を上げ、利益を拡大する方法を少しだけ頭をひねって考えるのか。

*1:High Difinition 高精細映像。いわゆるハイビジョン。ハイビジョンはNHK用語なので使いたくない